gigi

住み慣れた土地を歩いても好奇心が動くことはなく、つまらない散歩を続けている。たいして遠くにも行けないから飽きてくる。多くのことに新鮮さや興味を感じられた頃が確かにあったのに、今はそれよりも不安と倦怠感が勝るようになった。この神経質は歩き方…

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ぼうっとしていたわけでも、逆に何かを必死に頑張っていたわけでもないのに、いつの間にか結構な時間が経っていた。過ぎるその日々のことを自覚してはいたので、「いつの間にか」というのはちょっと違うかもしれない。ただ振り返って見ると空っぽの暮らしだ…

テア・アス・アパート

me fall 鏡の向こうで仰向けになった男を見ている。暗がりで、誰かに身体を舐められながら男は泣いている。それが愉悦のためなのか、悲嘆のためなのかは分からない。とにかく、彼らは未来を終わらせる約束をしたのだった。もうこの血は後には続かないだろう…

ヘジラ

見慣れない小さな窓。カーテンの向こうが明るくなっていく。よく眠れなかった朝はいつも、陽が空を照らす速度に感心していた。日の出より前に起きることが最近は多かったので、いまが何時なのか、窓を見つめながらだいたい推測することができた。他人の部屋…

子供達へ

自転車に乗ったのは数ヵ月ぶりだった。ついこの前まで雪に埋もれていたもので、カゴの錆がそろそろ見過ごせない状態になっている。まずいな、と思ったけど、きっと去年も同じことを思ったはずだ。だからって何かするわけでもないから。 油を差した歯車や空気…

震え

メリーゴーラウンド 怖かったことも終わってみれば大したことがなくて、その軽い気持ちの中では、「全部杞憂だった」で済んでしまう。そういう晴れやかな気分のときはもう、これからのことも、どうにでもなればいいと思えてしまう。いくらでも恐れればいい。…

雪吊り

いつの間にか冬になっていた。学校の勉強やそれ以外の勉強を毎日こなしながら、あと不安に慄いて何もできず呆けている時間(これが無くならないのだ)を浪費しながら、気づけば余裕が少なくなっていた。いつもできる限りのことをやってようやく眠ろうとする…

ポスト

先が行き止まりになっているのを知っていても、その道を進むしかなかった。確実にやってくる休息の終わりや、自分一人では手に負えない出来事にぶつかるのが怖くて毎日怯えている。かつて自分とは無縁だと思っていた状況が次第にはっきり現れて、すっかりゴ…

その他の悪

いつもその後になって、自分のやったことは如何様にも解釈できてしまうことに気づく。ほとんどの行為は自分を追い込むためだったとも、反対に甘やかすためだったとも言えてしまう。敢えて人との関わりを避ける、安直な自己アピールに走らない、欲求が発散さ…

安心感とフォーク

寛解 いまの自己へとつながる連続性の始まりは、たぶん中学3年とかそのあたりだと思っている。その頃から常に、「不安を感じていないと安心できない」状態でやってきた。何か見落としていることは、忘れていることは無いか。背後に危険は居ないか。そうやっ…

花束を縫う道

部屋、そのほか 壁を注視した経験が実はあまり無く、「見慣れた壁紙」なんて言えないことに気づく。家に帰りたいと言ってもべつに部屋が好きなわけじゃなくて、ここはただ安全なだけだった。外の冷たい空気のなか、人通りの少ない(ほとんどない)道を歩くと…

鈍い縁

今月こそはちゃんと外の空気を吸って、写真を撮ったり田んぼを眺めたりして過ごしたいなと思っていたのに、いざ一人でそこそこ自由な生活に投げ込まれると、引きこもってディスプレイと向かい合う時間ばかりになってしまう。あとから後悔するのだから、いま…

いまが苦しくなければそれでいい

簡単なことを見落としている気がする。自分以外の全員が世界の当たり前を知っていて、自分は笑われたままでいる。そんな不安がずっと消えない。 人とは分かり合えない、と、使い古された言い回しをまた使うことが恥ずかしくなるくらいには、そのことを十分承…

7/1

自分の不安や強迫について親とメールで話すことは今まで何度かあった。昔からそうだが、自分のそういう気持ちを、正直に言うことは苦手で、むしろ嫌悪しているといってもいいくらい、言えない。本当のことを言ったことはたぶん一度もない。そうやって自分と…

5/26

多くの物事に関して理知的であって、感情よりも理屈の整理に徹することは良いことだと思う。社会問題や巷の話題、平凡な日常会話のなかに合理的な意見を述べられることは、良いこと。それが上手にできるなら自分もそうしたいと思うし、あこがれている。それ…

農道

1週間は5つの平日と1つの休日でできている気がする。土曜日におれは何をやってんだろうと思いながら、午後3時くらいに朝食を食べる。何かをミスっても「その代わり」で生きている人間だから、その代わり明日はちゃんとしようと思って、日曜日は外に出ようと…

要約

みんながやってる生活や、そのほかの遊びやもろもろの出来事に乗り遅れながら、今日もなんだかやる気のないのがバレないように努めるだけで終わった気がする。桜が散ってからは緑になるのが早いなと、毎年同じことを思っては忘れている。久しぶりに雨が降っ…

ikisu

綺麗な女の人とか、あからさまに憂鬱を書いた歌とか、何か裏をちらつかせた創作物全般が二人で寄り添って、笑って、手を繋いで歩いてる男女とか、一人で歩いてる女の人とか、道で再三死んでいるおじさんとか高速四つ打ちとそれとなく和風なギターリフで流行…

日記

いつか終わる安寧の中にいて、終わることに怯えながら楽しいことを楽しいと思えるように必死にやっている。躁躁鬱で進む生活だから、ただつらいの殻だけ残った心のあたりを不便に思っている。確かに穏やかであることを願ったが、そう長くは続かないこれのこ…

失効

チェーン巻いたヤマトのトラックが物凄い音をたてて横を通り過ぎていく。その瞬間がすごく怖い。踏切でバーのそばに立って列車が通り過ぎる瞬間も同じ。大きい音に襲われて何も聞こえてない数秒間で、後ろから刺されそうな気がしてならない。でも身動きが取…

フローラ

高校生や大学生になると、さすがに「大人」になったその人との性格の連続性なんかが出てくる。彼はあの性格がまさに彼であり、そのまま大人になっていくのだろう、っていう確信が徐々に生まれてくる。いま自分の周囲にいる大人たちの、若いころの姿を想像す…

肺呼吸

「長い間、良くない夢を見ていました。すぐに切らしてしまう薬の様に、後先が頼りないほんの少しの楽しみで誤魔化しながらも、その恐怖や不安は積み上がっていったような気がします。生まれて来なければ良かった、なんて思ってはいません。生まれてから死ぬ…

身の程

お店を出てから、安心のための深呼吸もせずに自転車の方に歩いていった。小刻みに吐く息が白いことに感動したのはついこの間だったが、もう慣れてしまった。ここ数年、12月はかなり悪いことが起きて死にかけていたけれど、今年はまだマシだろうか。大変なこ…

時祷書

中学生なんてのはまだ幼い子どもだから、そこに先輩後輩なんていう扱いづらい権力を与えてしまったら、やっぱりその仕組みには失敗だってあるもので、自分はそういう場所にいたのだと思う。部活でスポーツをやっていたけど、上手ではなかったし、上手になろ…

写本

誰にも褒められず育った人間が自分のことを自分で褒めてやろうとするとき、その言葉には説得力が備わっているんだろうか。最近よく考えている。 自分はよく頑張っていると思う。動悸のするような、2年くらい積み重なっていた同じ不安が凝縮された一瞬を何度…

大人になれない

「変わっちゃったね」と言うのが嫌で、遠回しにまた相手の気に障るようなことを言って、人間関係をダメにしてしまったことがある。その言葉は、まるで相手に何かを期待していたみたいじゃないか。 「この人変わっちゃったんだな」というのは、所有欲からくる…

"do you love me"

当たり前だけど、あるとき「それを忘れていたな」と気づく瞬間は、その内容を思い出す瞬間と同時であって、忘れるという現象(行為ではない)は、到底自分の手には負えない。気づいた時にはすべて終わっているから。逆に、忘れよう忘れようと念じてみたとこ…

上手な休み方

今日の空はとても綺麗だったのに、一歩も外に出ることなく終わってしまった。外出の為にかかる数十分が面倒だったというだけの理由で。昨日いろいろあって疲れたから、なんなら今日はずっと寝ていようかと思っていた。けど、そうやって潰した一日を後で後悔…

ボツ原稿

2016年の秋から冬にかけて、ゆっくり組み立てていた原稿。 結局収拾がつかなくなって、完結もされずボツになった。 それ以降、今までに書いた2つの短編の執筆中、ボツ原稿の中から良い部分を抜き取って使えるかもしれないと思って残していたんだけれど、使う…

of Sadness

近頃、PCに溜まった写真の整理をしている。一眼レフで撮ったものは、ひとつの写真につきJPEGとRAWという2種類のファイルが存在していて、RAW形式のデータは、同じJPEG写真の2倍以上のデータ量がある。それがだいぶPCの容量を圧迫していたらしい。数打ちゃ当…