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4:00AM

”考えろ”なんて言わないから

『No.N』

小説とSS

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ある小さな町の小学4年生、男の子。
些細な事から、学校の友達と大喧嘩をした。
担任に散々叱られた後、一件は担任から両親に伝えられた。
父親は何も言わなかったが、母親にはまたこっぴどく叱られた。
どうして同じことを二度も怒られなきゃいけないんだ。
気に入らなかった。
その友達はクラスにたくさんの友達を持っていたから、男の子はクラスの中で浮き気味になってしまった。
一緒に遊ぶことが多かった別の友達にも、冷たい目を向けられるようになる。
臆病な子供は何も言えなかった。
言葉も表情も、何もかもが不器用だったから。

 

そうして独りぼっちになった。

 

人が居ないところを探した。
いつの間にか、今まで外で遊んでいた休み時間は、人の少ない図書室で時間を潰すようになった。
せっかくだからと、いろんな本を読んだ。
難しい言葉はたくさんあったが、物語の大筋の結末を理解できればよしとしていた。
小説の中に現れる、奇妙な世界に憧れ、男の子はいつしか、彼しか知らない『夢の世界』を想像した。

毎日その世界の事ばかり考えていた。
その度に加えられる新しい設定。
"僕の家"、
泣いている花、
雲を貫く送電塔、
奇妙な色をした空、
生きているかのように生えてくる高層ビル、
人ではないひと

誰も知らない。"僕だけの世界"を創った。

 

ある日の晩、男の子は長い夢を見た。
彼は、彼が創った夢の世界に居た。
願いが叶ったんだ!
そう、大喜びした。

 

逆さまの玄関は歪んだ"僕の家"の入り口。
紫色とオレンジ色が渦巻く夕方の空。
どこまでも高く伸びる送電塔。
あちらへ、こちらへ、体をくねらせる高層ビル。
異形の友達。

 

夢のすべてに見惚れながら散歩をした。
友達といっしょに遊んだ。
花を眺めて笑っていた。
ビルの屋上からの眺めは絶景だった。

突然目が覚めたのは、つまらない日常の朝だった。


それから何度か、"夢の世界"に行った。
それはいつも寝ている時だった。
いつしか学校から帰るのが楽しみになって、変に機嫌が良かったので、両親には気味悪がられた。
勿論、そんなことは意識の外だったけれど。

 

小学校6年生の、ある冬の晩、彼は夢を見た。
いつも通りの世界。
もう何回目か分からないけれど、飽きることは無かった。

一つだけ、初めて見るものがあった。
輝く池のほとりにある、古びた無人駅。
ホームは一つしか無かったが、『N番線』と書かれた表示が、
今にも折れてしまいそうな錆びた鉄の棒を以て、立てられていた。

 

遙か遠くから伸びてくる線路は、ホームの前を過ぎてまた遠くへ伸びている。
どこまで続くのだろう。
夢の世界の端っこまで行けるだろうか。
そんなことを考えた。

 

いつの間にか空は暗く。
こんなに奇妙な色の空も、夜には真っ暗になる。
夜には敵わない。

男の子が夜に怯えだした頃、電車が来た。
唐突に鼓膜を叩く轟音。
あまりにも急だったので、彼は反射的に体を震わせた。

電車は止まり、音を立ててドアが開いた。

 

――――――――――

 

シートに乗り上げて窓の外を見ている。
姿は数年前のものなのに、何故かもっと幼く感じる。
楽しそうにしている。
これから遠足にでも向かうみたいに。


暗闇の中にぽつりぽつりと光るのは、街灯の灯りか。
「ねえねえ」
「なに?」
「これからどこに行くの?」
「僕も分からないよ」
「そっかー」

 

「夜だね」
「うん」

 

「怖い?」
「別に。こわくない」

 

「本当に?」
「・・・」

 

「安心してって言ったでしょ」
「じゃあ、最初からそんなこと、言わなきゃいいのにさ」

 

「真っ暗だ」
「うん」

 

「何も見えない」
・・・

 

「誰も見えないよ」
・・・

 

「分かってるんでしょ」

・・・

 

「ほら、ね」
・・・

 

震え出す。

 

 

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